前回は、世の作品の多くには共通する要素があり、それを「神話の法則」と定義づけるお話しでした。共通する12の要素をもう一度振り返ってみます。
1日常の世界
2冒険へのいざない
3冒険への拒絶
4賢者との出会い
5第一関門突破
6仲間、敵対者/テスト
7最も危険な場所への接近(さらに複雑化する)
8最大の試練
9報酬
10帰路
11復活
12帰還
スター・ウォーズはずばりこの法則にドンピシャだといいます。
(それもそのはず、監督のバイブルとも呼ぶべき本が「神話の法則」もとい「千の顔を持つ英雄」だから※前回参照)
しかし、果たして本当にほかの作品にもあてはまるのか。
日本映画の歴代興行収入1位(308億円)といわれる「千と千尋の神隠し」で考えてみましょう。
1日常の世界
千尋たち家族は引っ越しで新しい土地へ。
2冒険へのいざない
移動中、森の中に迷い込んだ千尋たちはトンネルを発見。両親は中に入ってみようとする。
3冒険への拒絶
千尋は拒否するが、どんどん進む両親に仕方なくついていく。
両親は豚になってしまう。それを見て泣く千尋。
4賢者との出会い
困っているところに、ハクと出会う。
5第一関門突破
湯婆婆に名前をもらい、両親の姿をもとに戻すために油屋で働くことを許される。
6仲間、敵対者/テスト
リンたちとの出会い。
7最も危険な場所への接近(さらに複雑化する)
重傷のハクを助けるため、危険をかえりみず銭婆のところへ。
8最大の試練
たくさんの豚の中から両親を言い当てるように、湯婆婆から指示される。
9報酬
見事に言い当て、晴れて自由の身に。
10帰路
従業員たちに祝福されながら油屋をあとにする。
11復活
人間に戻った両親は最初のトンネルの前で何事もなかったかのように待っている。
12帰還
千尋、もとの日常へ。
さまざまな解釈があるとは思いますが、まとめるとこんな感じに。
いかがでしょうか。
では続いて千と千尋~に次いで興行収入2位を記録した「君の名は。」を見てみましょう。
1日常の世界
東京に住む2人の男女が寝起きに涙を流すシーン。高校生時代に体験した出来事を回想。
2冒険へのいざない
ある朝、東京に住む立花瀧と岐阜に住む宮水三葉は「誰か」と入れ替わるが、「夢だ」と思いながら過ごす。翌朝はもとに戻るが再び入れ替わる。
3冒険への拒絶
「俺の(私の)体で変なことをするな」とお互い言い合う。
4賢者との出会い
祖母だけは入れ替わりを悟っている(ように見受けられる)。
5第一関門突破
入れ替わりを次第に楽しむように。
6仲間、敵対者/テスト
ところが、入れ替わりは途絶え、その事実すらなかったことになる。忘れかけていた頃、瀧はふと思い立ち記憶を頼りに奥寺先輩や司とともに岐阜へ向かう。
三葉は勅使河原らとともに彗星の衝突を止めるよう動き出す。
7最も危険な場所への接近(さらに複雑化する)
瀧は消滅した糸守町へ。そこで、入れ替わっていた際の記憶を思い出し、とある行動に出る。
三葉は町のみんなを避難させるため危険な賭けに出る。
8最大の試練
三葉(中身は瀧)は避難計画の実行中、三葉の自分に対する思いに気づく。「カタワレ時」といわれる時間帯だけ入れ替わりがもとに戻り、初めて直接会話ができた2人。その後、彗星の破片が糸守町に落下する。
9報酬
糸守町の住民は避難に成功し、無傷で済む。
10帰路
舞台は8年後。瀧は就活中、三葉も東京で暮らしている。
11復活
ただ、入れ替わりの記憶だけは残っていた。
12帰還
ある日、並走する別々の電車の車窓からお互いの存在に気づいた2人はそれぞれ互いの名前を尋ねる。「君の名前は」。
以上です。
こちらも解釈はそれぞれありそうですが、ざっとわけてみるとこんな感じです。
ストーリーが2つの時間軸で進むのでわかりにくい点もありますが……。
余談ですが「君の名は。」の新海誠監督の他作品は、決してこの通りではないのです。
こんなにきれいにあてはまらず、ともすれば「え!? ここで終わるの!?」という「後味の悪さ」が作品の特徴だったとも言えます。
今作は、プロデューサーに小説家でもある川村元気さんが加わるなど、かなり「売れ路線」を目指したのだろうと思われます。そしてその読みは見事あたり、興行収入はとんでもないことに――。
決まりきった型であろうと共感をよぶのが「神話の法則」なのでしょう。
人気作に育てるには、欠かせません!