「そんなバカな」と言いたくなるでしょうが、はっきりとした決まりはない、というのがぼくの見解です。
そもそも記号の使い方やルールは、はなはだ曖昧で、「書き手それぞれが自分なりのルールを決めて書いている」というのが実情。「なんとなく」「ニュアンスで」使い分けているのであれば、それはある意味で正解なのです。
同じことは、「、(読点)」と「。(句点)」にも言えます。横書きだと「,(コンマ)」と「.(ピリオド)」でもよいなんて、ものすごくいい加減ですよね。いまもたぶん算数の教科書の多くは、コンマとピリオドを使っているんじゃないかな。しかも、打ち方のルールはと言うと……と、このテンとマルの話はおもしろいんだけど、長くなるのでまたいずれ。
あ、そう言えば、ライターになって、もう10年が経つのですか。よく生き残りましたね。締め切りに追われ続けて、いつしか10年。これからも追われ追われて……。
と、3点リーダーを使ってみました。いかがでしょうか。あ、そんなに眉をしかめなくても、いいじゃないですか。
連続使用する理由は?
はいはい、わかりました。ダッシュとリーダーの話に戻りましょう。あ、ぼくは日頃「3点リーダー」と言っているので、これからはそう表記します。2点リーダー(‥)もありますからね。ま、使う人はほとんどいませんが。
それでまず、ぼくの長年の観察によると、ダッシュ、3点リーダーともに、「――」「……」のように圧倒的に2連続で表記されることが多いようです。
ダッシュの場合、1回だと「ー(長音符・音引き)」と間違えられる危険性が高まるからでしょう。たとえば「カレ―」と書いた場合、ほとんどの人が「カレー」と読んでしまうだろうからね(よく見てください。「―」と「ー」は別物です)。で、これが
「カレ――永島啓介は、学校でも特別に目立つ存在だ」
といったように2回にすると、その危険性は一気に下がりますね。
じゃあ、リーダーのほうはどうか、なんですが、こちらは
「そんなことを言われても…」
というふうに1回でもいい気がします。おそらくダッシュの影響を受けて、だんだんと2回がスタンダード化してきたのではないか、というのは、ぼくの勝手な推測です。
つまり、この2回というのも、はっきりとした決まりではない。小説、とりわけライトノベルズのような比較的軽い文体の場合は
「―――――――――ってマジか!」
とか
「そんなに………そんなにあたしのこと嫌いなんですか………………」
といったような使い方によく出くわしますし、それはそれでいいと、ぼくは考えています。だって、文体なんだから、書き手の自由。大切なのは成功しているかどうか。もっと砕いて言えば、そのほうがおもしろいかどうか、ですよね。
そして、同じ文を使って実験してみますが、
「………………………ってマジか!」
「そんなに―――そんなにあたしのこと嫌いなんですか―――――」
と入れ替えてみても、大きく意味が変わるわけではない。つまりニュアンスなんです。
実際どう使い分けているのか?
じゃあ、ダッシュと3点リーダーは、それぞれどんなニュアンスを含んでいるんでしょうか。これはもう、ぼくの個人的な感覚で説明してみるしかないわけですが、たとえばダッシュには「時間が経過しているが、そのスピードは速い」という感じがします。一方の3点リーダーは時間がゆっくりと進む。
それから
「そんなこと言われても……」
「……わかった。この話はなかったことにしよう」
といったように、言い淀むシーンだったり
「ちょっと待てよ。男は12号室から出てきたわけだから……」
と言葉を切って、思考に入ったりするときは、ぼくは100%、3点リーダーを使います。ダッシュにすると、スピード感が出すぎて、考えている感じがしないからです。
小説ではない文章に使う場合は?
創作ではなく、雑誌記事やエッセイなどで使う場合、たとえば
「言葉のチカラで愛と平和を――そんな理念に共鳴した者たちが集う会社が福岡にある」
のように、読点も句点も打てないけれど、区切らなければならない場合はダッシュが便利です。また、ぼくはほとんど使いませんが
「言葉のチカラ――元木が使う場合、それは主に文章を書く力のことだが――を多くの人が自由自在に使えるようになれば……」
といったようにダッシュで挟まれた部分を説明として書くことができます。ちなみに上の文の最後の3点リーダーは、「その後は省略しています」ということを表していますよね。
その他にも
「少年よ、大志を抱け」――クラーク博士
贅沢ハムカツ……490円
などと言い出したら、まだまだ用法はありそうですが、とりあえず、このあたりで……(お茶を濁すの意)。