元木
小説を書くきっかけは?
法坂
35歳の時に読んだ『チーム・バチスタの栄光』(※1)です。10年ほど弁護士として活動する中で、司法のリアルな問題を肌で感じていました。海堂さんが医療界の問題を物語という形でえぐり出した手法は、法曹界でも使えるんじゃないかな、と。
元木
すぐに取り掛かった?
法坂
以前、ふと「マラソンに出たいな」と思いついたとき、すぐに走り出していました。「10キロ走れたら、次はフルマラソンも走りきれる」と根拠もなく考えて、でも、実現できたんです。小説もそんな感じでしたね。
元木
マラソンの経験が活きた。
法坂
ええ、マラソンは走っていたらいつかは終わる競技です。小説も書いていればいつかは終わる。そこはけっこう似ているんですよね。一気に最後までやろうと思わずに、コツコツとやればいい。書き終えるまでの根性が大切ですね。
元木
執筆はどんなふうに進めたのですか。
法坂
まずは宝島社の「このミステリーがすごい」という新人賞に応募すると決めて、いきなり書き始めました。
元木
習作もなしに?
法坂
ええ、仕事の空き時間や仕事終わりに、少しずつ執筆しました。1日2、3枚とか、そんな感じで。
元木
全体のストーリー構成やキャラクター設定は?
法坂
キャラクターは、フィリップ・マーロウ(※2)が弁護士になったら、という、ただそれだけですよ(笑)。
元木
ええっ、ほんとですか!
法坂
ほんとです(笑)。しかも物語のプロットは、行き当たりばったり。訴えたい法曹界の問題はあったものの、ストーリーの流れは漠然としか考えていませんでした。だからその日の思いつき次第で、話はドラスティックに変わっていきました。
元木
プロットを完全に固めてから書き始めるタイプと、書きながら創作していくタイプ。大きく分けて2つのタイプがあるとすれば、法坂さんは後者なんですね。
法坂
1作目については完全にそうですね。ただ、2作目以降は、事前に編集者にプロットを提出してから作品づくりがスタートするという流れだったので、しぶしぶ筋書きを書きました。
元木
処女作は書いていてどんな感じでした?
法坂
こうしたらおもしろいかな、とか、完全に読者目線で進めました。自分の楽しみのために書いている面が大きかった。日々の仕事のなかで、書くための時間を1日2、3時間、なんとか見つける。これって楽しくないと継続は難しいと思います。
元木
作品中では、レイモンド・チャンドラー(3)も多用した「ワイズクラック(4)」の技法が効いていますね。
法坂
ハズすと恥ずかしいですが、まさにハードボイルド小説の伝統芸なので……。
元木
話が横道に逸れるけど、法坂さんは時事をダジャレで切るツイッターの投稿もワイズクラックが効いていますよね。
法坂
まっとうに批判してもすぐに炎上しちゃう。こういう世の中なので(笑)。皮肉を言うことについては、それまでも常に考えていましたね。茶化さないと気がすまないタイプなんです。
元木
そして、処女作で第10回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。
法坂
宇宙飛行士の訓練も受けてないのに月に行っちゃった、という感じですね。あ、でもアムロは何も訓練していないのにガンダムを操縦した。例えて言うなら、そんな感じです(笑)。

housaka1

元木
2作目はいかがでしたか。
法坂
1作目との最も大きな違いは、編集者を介した作品づくりになったことです。1作目は手ぶらで歩き始めたのが、2作目では「海外旅行のしおり」があって、荷物があらかじめ準備されている状態。そういう旅は、もともと苦手なんです。
元木
ちょっと息苦しかった?
法坂
「そんなこと、書きながら考えるのに」と思うことも何度かありました(笑)。書き出すまでも、書き始めてからもけっこう時間がかかりました。
元木
プロットがあったほうが速く書けそうだけど、そこは人それぞれなんですね。

 


※1
『チーム・バチスタの栄光』 2006年に宝島社から刊行された海堂尊の長編小説、デビュー作。医師を務める海堂尊が、大学病院内の医局政治や人間関係をリアルに描いた。第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、TVドラマや映画にもなった話題作。

※2
フィリップ・マーロウ レイモンド・チャンドラーが生み出したハードボイルド小説の探偵。

※3
レイモンド・チャンドラー アメリカの小説家、脚本家。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とした作品の数々で「ハードボイルド小説」と呼ばれるジャンルを築いた。

※4
ワイズクラック ハードボイルド小説などで多用される挑発表現。主人公が窮地に陥ったときに発する、皮肉交じりのセリフなどを指す。