元木
読書は幼い頃から好きだったんでしょうか。
法坂
好んで本を読むようになったのは、小学4年生の頃ですね。『南極物語』(※1)の子ども向けの原作を読んだ読書感想文で、先生にひどく怒られたことがありました。本当は原稿用紙3枚くらいでよかったのに30枚くらい書いたら「子どもがこんなに書くもんじゃない」と。確か、映画と本の違いみたいなテーマで書いた気がします。
元木
30枚、ものすごいですね。
法坂
以来、担任の先生の手にはおえなくなったのか「図書室の先生と話しなさい」と言われて、図書室に預けられるようになりました。そこで「これ読んでみたら?」「あれはどう?」といろいろな本を勧めてもらううちにミステリー小説に触れ、西村京太郎さん(※2)や赤川次郎さん(※3)を読みはじめたんです。
元木
自宅でも本はよく読んでいたんですか?
法坂
はい。「本はいくら買ってもいい」という教育方針は、我が家で唯一良かったルールでした。

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元木
中学に入ってからもミステリー小説を?
法坂
中学2年生の時に司馬遼太郎さんの『馬上少年過ぐ』(※4)に出会ったのがきっかけで、そこからは歴史小説に夢中になりました。また一段と、こうるさい中学生でしたね。
元木
それ以外では?
法坂
山岡荘八(※5)さんは『徳川家康』(※6)全26巻を読破しました。吉川英治(※7)さんの『新・平家物語』(※8)も。長い作品にチャレンジする傾向がありました。
元木
高校生からは?
法坂
椎名誠さんですね。いわゆる昭和軽薄体(※9)の「シーナ的な文章」をいろいろと書いては、先生に怒られていました。
元木
書くことを意識しはじめたのもこの頃でしょうか。
法坂
そうですね。「この人の文体を真似してみたい」と考えるようになっていました。
元木
弁護士を志したきっかけは?
法坂
「バブルがはじけた」と言われた頃だったので、とにかく「何か手に職を」と、高校卒業時には弁護士になろうと決めていました。大学卒業後、2年留年して弁護士試験に受かり、ようやく弁護士になったのは26歳でした。
元木
物書きにあこがれたことは?
法坂
ありましたね。でも、具体的に「小説家になる」とは思っていませんでした。宇宙飛行士になりたいとかガンダムのパイロットになりたいとかと同じ類の、それくらい非現実的なものでした。

 


※1
『南極物語』……南極観測隊の苦難とそり犬たちの悲劇をテーマにした、1983年公開の実写版日本映画

※2
西村京太郎……小説家、推理作家。『寝台特急殺人事件』でトラベルミステリーのジャンルを確立した。有名なキャラクター十津川警部や左文字進が登場する名シリーズほか、著作多数

※3
赤川次郎……日本を代表する人気推理小説作家。著作数は約580冊。代表作に『セーラー服と機関銃』『ふたり』

※4
『馬上少年過ぐ』……戦国武将・伊達政宗をモチーフにした歴史小説。伊達政宗は「独眼竜正宗」の愛称でも知られ、同名のNHK大河ドラマもヒットした

※5
山岡荘八……歴史小説を多数残した小説家、作家

※6
『徳川家康』……17年にわたって全国4紙に連載された山岡荘八の歴史小説。現在は講談社の山岡荘八歴史文庫、全26巻の大作

※7
吉川英治……戦前から活動を始めた小説家。1935年から朝日新聞で連載が始まった『宮本武蔵』は幅広い読者を獲得し、代表的な大衆小説となった

※8
『新・平家物語』……吉川英治著、歴史小説の大作。1950年から1957年まで『週刊朝日』に連載された。現行版は吉川英治歴史時代文庫全16巻、新潮文庫全20巻

※9
椎名誠や嵐山光三郎らが1970年代末から1980年代前半にかけて築きあげた、くだけた喋り口調が持ち味の饒舌な文体のこと