- 元木
- 文章を書くうえで大切にしていることは?
- 法坂
- リズムですね。短ければいいというものではない。あえて長くすることもあります。目で追っていて、心地の良いもの。長短の使い分けが必要です。
- 元木
- ハードボイルド小説のリズムについてはどうですか?
- 法坂
- 「短い短い、長い」ですね。私のような音楽好きの文章好きだと、どうしてもリズムが気になってしまいます。
- 元木
- 物書きは音楽好きが多いですよね。そういえば『弁護士探偵物語』の主人公も、かなりの音楽好きでした。
- 法坂
- 主人公のキャラクター設定を考えたときに聴くならジャズかな、と。それから意識して自分も聴くようになって、いつの間にか詳しくなっていました。
- 元木
- 法坂さんが音楽的だと思う作家は?
- 法坂
- うーん誰だろう……チャンドラーは音楽的だと思います。逆に、まったく音楽を感じないのはハメット(※1)ですね
- 元木
- 同感です。
- 法坂
- だからダメかというと、そうでもない。あれはあれで、ひとつのすばらしい文体が完成されています。
- 元木
- 法坂さんの文章にも音楽性を感じる。『ダーティー・ワーク 弁護士監察室』も面白く読みました。
- 法坂
- 「死が全てを癒すだろう」なんて書いたら、私自身があんな目に……。でも、もう脳は快調そのものです。
- 元木
- 大病を患われて奇跡的に回復された今、原稿はどのように書いていらっしゃるんですか?
- 法坂
- パソコンのキーボードを片手打ちです。「できない」といったらその道はなくなるんですよね。何でも、とにかくやってみないと。車椅子生活だったのが、今は歩けていますから。裁判所まで1時間かかっていたのが今は30分で到着するんですよ。
- 元木
- そして、マラソンもあきらめていない。
- 法坂
- 「車椅子作家」のキャッチコピーは使えなくなっちゃいましたけどね(笑)。
- 元木
- 最後に、小説を書きたい、文章を書きたい人にアドバイスを。
- 法坂
- まず「読むこと」。そして何よりも「書いてみること」ですね。「小説なんて書けない」という人がいるけれど、書けないと言ってしまえばそれで終わりなんですよ。時間とパソコンがあれば誰でも書ける。パソコンもいらない、スマホだけでもいいかもしれません。
※1
ダシール・ハメット……1920~30年代に活躍したアメリカのミステリー作家。推理小説の世界でハードボイルドスタイルを確立した。代表作に『血の収穫』『マルタの鷹』